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つちのこ少女はいなかった。
代わりに、別の少女が先ほどまで彼女が座っていたベンチを占拠していた。
こんな短時間にどうやら入れ替わってしまったらしい。
そして、やはり何故か制服を着ている。しかも、つちのこ少女と同じく、市内にある私立御耶高校のものだ。
巷の女子高生の間では授業をサボってベンチに座るのが流行ってるのかしらね、どうも。
小柄な少女だ。線も細く、色白で、病弱そうな印象さえ受ける。
顔立ちは幼く、随分可愛らしい。ポニーテールもよく似合っていて、小動物か妖精を思わせる雰囲気を醸し出していた。
ただ、顔色が優れない――恐らく病弱そうな印象はそれが原因だろう。
何となくだけど、普段は雰囲気通り活発的に活動していそうな感じはした。
ちなみに、小柄という意味ではわたしも負けてはいない。並んで立ってもそんなに差はないはず。
「大丈夫ですか?」
俯きげに座る少女にわたしは話しかけた。
少女はこれまた可愛らしい瞳をこちらに向け、力なく苦笑する。
「うん……ちょっと休憩していただけだから」
あまり大丈夫じゃないみたい。
鈴を鳴らしたような声が、空気の抜けたような風船のように萎んでいく。
「救急車、呼ぶ?」
さすがに大袈裟かとは思った。少女も慌てて首を横に振る。
「本当に休憩してただけだから。大丈夫」
本人がそう言うなら仕方ない。
「本当は、学校を早退したから家で寝てなきゃいけないんだけど」
少女が呟くように言う。わたしは何となく隣に腰掛けた。
「バスで通学してるんだけどね。住んでるのは――」
この辺ではない地名が出てきた。近辺ではある。歩いていけない距離ではない。
「――途中で具合が悪くなって、バスからいったん降りたの。たまたま近くにこの公園があったから、休んでただけ」
だから制服を身に纏っているらしい。
わたしは適当に相槌を打ちつつ、少女のなりを改めて眺め見る。
うん、いたって普通ね。
普通というのは、つまりIFがあるということだ。
「一つ、質問いい?」
わたしの問いかけに、少女は小首を傾げる。
「なぁに?」
「ここにあなたと同じ制服を着た女の人はいなかった?」
短時間での交代だもの、すれ違うか、視界に入るくらいはしているはず。
しかし、少女は首を反対側に傾け直し、小さく唸る。
「んん……見てないかな? 具合悪くて。それ、どんな子?」
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