夢屋

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 砂のように崩れた鉄筋の残骸がついた羽織を払いながら、夢屋は木箱を拾い上げ先を続けた。 「お前さんが夢の中にいれば、お前さんの身体はどんどん弱っていく。それにあの様子じゃあ、お前さんの本体とお袋さん、どっちが先に参っちまうか解りゃしねぇ」 「今更……恩着せがましく女手ひとつで娘育ててますって顔して、仕事ばっかりで……あたしのことなんて見向きもしなかったくせに……今更母親面されたって――!」 「……それを、お袋さんに言ったことは?」 「……」 「お袋さんがどう思っているのか、話を聞いたことは?」  麻弥はうつむいたままだ。  無言で地面についた両手を握り締め、夢屋の言葉を受けている。  彼女を覆っていたドームは、もはや跡形も無い。  天井を覆っていたアーケードだったものも、端のほうからボロボロと崩れだしている。 「自分本位の母親。うわべだけの友達。結局は、お前さんの方が壁を作り、自分の中にある型に相手を当てはめて見ていただけなんじゃあねぇか?」  夢屋が言い終わると、麻弥はふらりと立ち上がった。  麻弥の表情は心なしか穏やかで。その瞳に膨れ上がった涙が、両の頬を伝う。口元は微かな笑みを形作っていた。 「全部、解ってたのよ。あんたが言うことも、夢のことも。あたしは、逃げてただけ」  突如、足元を振動が襲う。  もはや廃墟とも言いがたい不自然なアーケード内は各所に亀裂が走り、ひび割れた街のパーツがひとつ、またひとつと落下していく。  二人の立つ場所は、底知れぬ闇に浮かぶ崩落寸前の島だった。  麻弥に近づこうとした夢屋の前方が崩れ落ち、闇のそこへ小さく消えていく。  夢屋は少女の意思を察知し、鋭い光を瞳に宿らせ麻弥を見た。 「あたしみたいな奴は、自分の夢と一緒に消えてしまえばいいのよ」  言い終わるが早いか、麻弥の足元は細かくひび割れ、砕けた。  麻弥の体が、闇の深淵へと落ちていく。 「なんにも解っちゃいねぇよ!」  すぐ側で聞こえた声に驚き、閉じていた眼を開ける。  そこには麻弥と共に落下する夢屋の姿があった。  夢屋は麻弥の二の腕を、刺青の無い右手でしっかりと捕まえる。 「そんなことして、恰好いいとでも思ってんのかねぇ……また逃げてるだけじゃねぇか」 「どうして……」  
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