夢屋

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「ねぇ、なんなのそれ。あんた何者?」  警戒心をむき出しにした麻弥の表情は、緊張に強張っている。  男はそんな麻弥に不敵な笑みを浮かべて見せた。 「俺かい? 俺は夢屋さ」  夢屋、と名乗った男は座っていた場所に戻り、のそりと腰を据えた。  前に置かれた木箱に小瓶を戻すと、帯に挟んでいた革のケースのようなものを取り出す。  革の包みを開くと、そこから竹と鉄で作られた煙管を取り出した。  紐で繋がれた同様の包みから刻み煙草を取り出し、手際よく先端の火皿に詰める。 「そしてお前さんの言う“それ”は、“夢”だよ。夢を売ってるから、夢屋。当然だろ?」  言い終わるが早いか、夢屋はマッチで煙草に火をつけた。  麻弥は初めて見るその動作を傍目に、美味そうに煙を味わう夢屋を追求した。 「全然当然じゃないっ! 夢を売るなんて言って、へんなクスリかなんかじゃないでしょうね?」 「おいおい、人聞きの悪ぃこと言うない。お前さんだって、こんな平日の真っ昼間っからこんなところうろついててよぉ。学校は行かなくてもいいのかい?」 「……何言ってるの? ここには学校なんてないじゃない」  麻弥は、夢屋の言っている意味がわからない、と言うように眉をしかめて見せる。  夢屋は視線を伏せながら口の端を上げて微笑み、一言「そうかい」とつぶやいた。 「ま、ともかく俺の扱う夢は本物さ。さっき、お前さんだって見たんだろう?」  夢屋の言うとおり、麻弥はあの小瓶に詰められていた液体によって見たものは夢なのだと、胸の奥底では理解していた。  ただ、その事実が信じられないだけだったのだ。  あんな液体に触れただけで、自在に夢が見られるなんて事が、あるわけがない。  あるわけがないと否定しつつも、麻弥の心はすでに足元に置かれた小瓶に魅せられていた。  空を翔けるあの感覚。  ほんの数瞬だったのに、確かな経験として麻弥の中に残っている。 「さっきの減らしてしまった……夢? 私が買うわ。弁償する」  麻弥は夢屋に向かって言った。  もちろん、それは方便だ。  もう一度、あの夢を確かめたい。それが本心だった。  
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