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「――?」
しかし麻弥の身には何も起こらず、彼女は恐る恐る眼を開ける。
そこには信じられない光景が広がっていた。
アスファルトの路面は隆起し、捻じ曲がり、いたるところに大小様々な尖塔が発生している。
アーケードも奇怪な歪みを見せていた。
崩落した箇所からアーケード内に陽光が差し込み、薄暗い空間を切り取るように真下にある瓦礫を照らしている。
見慣れたはずのアーケードはそこに存在しなかったのだ。
そして麻弥と、正面に立つ夢屋の間は数本の細い鉄筋で遮られていた。
「やってくれるねぇ」
夢屋は、痛む左腕にちらと視線を向け、にやりと笑む。
麻弥を掴んでいたはずの左腕は、袖が裂けて幾筋かの赤い線が走っている。そこから浮き上がっているのは、言うまでもなく血液だった。
音もなく形態を変え始めたアーケード。
隆起した地面にバランスを崩したところに、降り下がった天井の一部が夢屋の腕を傷つけ、麻弥との間を遮ったのだ。
「どう……して――?」
麻弥はうつむいて、細い肩を震わせている。
夢屋はその様子を見ながら、煙管の雁首を鉄筋に叩き灰を落とす。
「どうして、こんなことするの? あんたが現れさえしなかったら……私、気付いたりしなかったのに――!」
麻弥は顔を上げ、キッと夢屋を睨みつけた。その瞳は濡れ、頬に一筋の流れを生みだす。
それを見ても夢屋は表情ひとつ変えることはなかった。
空になった煙管を帯に挟みこみ、地面に置かれたままいつの間にか蓋が閉じている木箱を抱え上げながら言った。
「それは違う。お前さんは“この世界に”学校は無いということを知っていた。……気づいていたんだろう? 初めっから」
「――っ。うるさい!」
麻弥がヒステリックに叫ぶ。
同時に、夢屋の背後、喫茶店の壁から白い巨大な棘が突き出される。
棘と鉄筋がぶつかり、ガシャリと派手な音を立てた。
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