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息がつまり、夢屋は咳き込んだ。
再び振り上げられながら見ると、麻弥は人一人がすっぽりと収まるドームに包まれつつあった。
麻弥の正面に当たる部分だけが、鉄筋による格子になっており、それも徐々に頑強な壁に覆われていく。
先程まで快晴だったはずの空は真っ黒に塗られた闇しかなく、ドーム内にいる麻弥の表情は、陰ってうかがい知ることはできない。
「そんなに、自分の夢の中が好きなのかい?」
触手の動きが止まった。
夢屋は、締め付けの甘い右腕を動かし、懐を探る。
「なら、見るがいいさ。この夢の真実の姿をな!」
夢屋の右腕が触手から引き抜かれ、麻弥に向けて振り下ろされた。
空中を回転しながらドームへと向かうそのきらめきは、小瓶の照り返しによるものだった。
小瓶はドームの格子にぶつかり、高い音を立てて割れた。
中に入っていた黒い液体が麻弥に降りかかる。
「きゃあっ!」
麻弥は自分の悲鳴を聞きながら、体が垂直に落下している感覚に襲われた。
それが止んだ時、麻弥は白い空間に立たされていた。
白く霞んで真っ白に見えていたが、良く見るとそこは病室のようだ。
脇に置かれた棚には、お見舞いの品や花が所狭しと置かれている。
それに添えられたカードの中には、見知った文字で記された良く知る名がいくつもあった。
部屋の奥は、白い衝立に遮られている。
無意識のうちに、衝立を回り込むように歩を進めていく。
衝立の奥に、対面の壁の大半を占める窓が姿を現す。
窓際にも、たくさんの花が置かれている。
さらに足を踏み入れた。
白いベッド。
その脇に座り、祈るようにベッドの上を見つめる疲れ果てた様子の女性。
ベッドの上で点滴に繋がれた、やつれた少女。
その、少女は――。
わ た し ?
嘘だ。
嘘だ。嘘だ、嘘だ、嘘嘘嘘嘘――。
「これでも、夢の中に閉じこもっているのがいいってのかい?」
夢屋の声に、麻弥はこちら側へ戻って来たようだ。
彼を束縛していた鉄筋は脆くも崩れ去り、麻弥を包み込もうとしていたドームも時間を巻き戻しているかのように元へ戻りつつある。
麻弥の精神が不安定になったために、形を保てなくなっているのだ。
ドームの中で麻弥は、力無く地面に座り込んでいる。
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