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2006年4月某日 山梨県某所 『おい、シン。今日はあがりだ』 男は作業を止め埃にまみれた手でヘルメットを脱いだ 『お前もあと少しで出られるな。よくここまで持ったもんだ』 そう言った男はポンとシンと呼んだ男の肩を軽く叩いた 『自分は必ずもう一度戻らなければいけないんですよ…こんな所で沈んでるわけにはいかない…』 シンと呼ばれた男はそう呟くと静かに寮へと歩いていった ここは山梨県のダム建設現場 別名「監獄」と呼ばれ一度ここに入ると契約期間を満たすまでは逃げられない 多重債務者や不法滞在者、ヤクザ相手に下手を打った者などが集まっている 逃げ出そうとすれば周りは山林に覆われ、一番近い町までは三十キロもかかる 捕まるとダムのコンクリートの中に埋葬だ ただ給料は悪くはない まあ天引きされなければの話だが ここで生き抜くためには二つのことを実践すればよい 逃げないことと死なないことだ
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