オープニングディスターバンス

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「普通に考えたら意味判らんな」 俺はやれやれと肩を竦めた。 だが、俺と違って霧亜には思うところがあったらしく、   「……こいつは空書架の事を指したヒントかも知れねーです」 そう言ってもう一度紙を見た。   「空書架、ってなんだ?」 「空書架っつーのは読んで字の如く。本の並べられてねー書架の事です。今は五階に空書架がありやがります」 霧亜はさっきまでに比べれば少し大きな声で、自信あり気に言った。   「五階に……宝があるかもしれない、か」 俺はそう言って上を仰ぎ見る。 木造の天井に据え付けられた水銀灯が淡く瞬いている。   「そーです。間違いねーです」 気が付けば霧亜は俺を放置してズンズン螺旋階段に向かって歩いている。 随分と自信に満ちた足取りで。   「置いてくなよ、霧亜」 俺は何とも無く名前で呼んでみた。   すると霧亜は立ち止まり、 「上級生に名指しの呼び捨てしてんじゃねーです!」 赤面しながらそう返して来た。 語調が少し荒いのは怒っているからか?などと思い、「悪い」と言おうとした時、俺が言う前に、 「……まぁ、手前になら呼ばれてやってもいいです。感謝しやがれ!」 傲岸不遜な態度で俺にそう言って、霧亜はまた螺旋階段に向かって歩き出した。 心なしかさっきより早い。   「……なんなんだ、一体」 俺は少し驚いたが、ほんの少し前までは小声でしか話さなかった彼女がちゃんとした声量で喋ったのは何故だろう?という疑問で驚きを打ち消し、既に階段を昇り始めた霧亜に続いて階段に足を掛け、一段ずつ登り始めた。  
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