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ガーゴイルの脇を通って正門をくぐる。
と、
『御早う御座います』
というやけに渋い男性の声が聞こえる。
「おう。毎日ご苦労さん」
声がした方向に向き直りながら返答する。
『いえ、これが某(それがし)の業務故。あまり気にしないで頂きたい』
これまた堅苦しい言葉使いで返して来る。
声の主はガーゴイルだ。
『それに、あなた方の仕事は遊び、学び、食す事。それと同義に我等はこの業務に誇りを持っております。労いは有り難いですが、御気持ちだけでも幸いで御座います』
若干噛み合わない回答をして来てくれるガーゴイル。堅苦しいが、人格は良いらしい。
「ははっ、そう言ってくれるなって」
カラカラと笑いながら返す。
毎朝続けて来た挨拶だが、なかなかガーゴイルの回答はバリエーションが多い。今まで完全に同じ答えだった事は一度も無い。
『それよりも、そろそろ式場に向かった方がよろしいかと……三十分より式が始まります故』
ガーゴイルがそう言って来るので、時計を見る。
八時二十分。
アナログ時計は寸分違わず時間をさしていた。
「ぬぉっ、あと十分しか無い!?すまん、教えてくれて感謝する!」
そう言い残して駆け出す。正門を通って正面通路が広がっており、季節の花が風情を感じさせるが、それを味わう余裕も無く疾風の如く正門から離れて行く。
そう言えば近くにシェリスがいない。置いてけぼりを食ったらしい。
『いや、ですからこれが業務であるからして……』
と、ガーゴイルがまた噛み合わない事を言っているが、それも耳に届かない。
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