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俺は土砂降りの雨の中を歩いた。
行く宛てもなければ、帰る場所もない。
俺はただ、途方に暮れながら街を歩いた。
灰色の街は冷たかった。
俺は静かにそのまま道路に崩れ落ちた。
涙だか雨粒だか分らない滴が俺の頬を伝っては、冷たい地面へと落ちていった。
俺の心は冷たい雨に完全に熱を奪われ、意識は既に朦朧とし始めていた。それでも俺は、道路の真ん中で、遠くなる意識の中で、ただただ必死に彼女の名を呼んだ。
――もう一度、
もう一度だけでいいから彼女に会いたい。俺は無我夢中で彼女の名を呼んだ。
だんだんと遠くなる意識。強くなる雨脚の中で俺は、完全に意識を失った。
雨は深夜を過ぎた頃から雪になった。
十二月のある日のことだ。
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