第一章「たったひとつの選択肢」

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 建物の中に足を踏み入れた途端、俺は急に一人の青年に呼び止められた。  艶のある、少し長い黒髪に、太い黒縁のメガネ。スラッとした高い鼻。引き締まった顔。身長は俺とほとんど変わらないから、だいたい百八十センチ前後といったところ。  見た感じ、ひとクラスに一人か二人ぐらいは居るであろう優等生タイプのその青年は、何故か笑顔に満ち溢れていた。  「ねえ、君も死んだの?」  青年は俺の手を強引に握り締めるとそう言った。  「なっ、何だよ急に」  俺は思わず青年のその手を振り払おうとしたが、俺の思った以上に、青年が俺の手を握る力は強かった。  「あぁ、俺は隆幸(たかゆき)。山下隆幸っていうんだ。よろしく」  「『こりゃどうも初めまして』と、言いたいとこだけど、一回手を離してくれない? 悪いんだけど」  「あぁ、ごめん。ついクセで……。大丈夫? 痛くなかった?」  そう言うと青年は恥ずかしそうに、その手を引っ込めた。  「あぁ、大丈夫、大丈夫」  俺は一回、青年に向かってニコーッとほくそ笑むと、オホンと咳をついて、静かに青年を見つめた。  「俺は大翔(ひろと)。雨宮大翔(あまみやひろと)って言うんだ。よろしく」  俺はそう言って、またニコーッとほくそ笑むと、隆幸という名の青年の手を手にとって、深々と握手を交わし、「ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ、いい?聞いても?」と尋ねた。    すると青年は、優しくニコッと微笑んで、「ええ、いいですよ」と言った。  
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