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俺は『あぁどうもありがとう』と言って、静かに青年の顔を見つめる。
「いや、そのさっきアンタ、俺に『君も死んだの?』とかなんとかって言ってたろ? ……ってことは何? アンタも向こうで死んだわけ? ちなみに、俺はむこうで死んだ! ドジなことに、バイクで事故っちまってよ。急いで病院に担ぎ込まれたけど、結局ダメだった。もう手遅れでしたってヤツさ」
俺はそう言ってアハハハと軽く笑うと、近くにあった黒い長イスにドサッと乱暴に腰掛けた。そして、そっとその青年を見つめた。
「で? アンタは? 『君も死んだの?』ってことは、アンタも今日死んだんだろう?」
「え? あぁうん。そう。俺も死んだよ。今日。ちなみに俺はその……そうだな。“予期せぬ事故”ってところかな?」
「 “予期せぬ事故”?」
「うん。実は今日の朝、本を読みながら駅のプラットフォームを歩いてたら、誤って線路に落ちちゃってさ、そんで、ちょうどその時、ホームに入って来てた電車にそのまま跳ねられちゃった……みたいな?」
「は? 電車に跳ねられた? しかも本読んでて線路に落ちて? は? 何だよそれ? てか、バイクで事故って死んだ俺よりドジじゃん。え? なのに……なんで、なんでそんなに笑ってられんだよ? なぁ!」
俺は、何故かニコニコと微笑みながら事故の真相を語る青年を見て、思わず『は?』と、声をあげた。何故、こんなにも哀れな死に方をしたはずの男が、こうやってのん気にニコニコと笑っていられるのか、俺にはどうしても理解することができなかったのだ。
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