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「おはよう、父さん」
春日は着替えを済ませリビングに降りると、エプロン姿の父がキッチンで手際良く料理を作っていた。
「おはよう、春日」
その挨拶は父子の日課、一日の始まりは挨拶から始まって、挨拶に終わると言うのが父の名言である。
「今日から、またエジプトの方で遺跡の発掘するんでしょ?」
父・栄四郎の職業は遺跡を発掘する事、その為、家に居る事は少ない。
今日も家を出れば一ヶ月は戻ってこない長めの出張、しかし、その生活にも慣れた。
母親は春日を産んでから体調を崩し、この世を去った。
しかし、寂しくなどない。
元より、面影すら知らない母親。それは気にする事なく今までの生活をしていた。
「あぁ、今回も長めの出張になるが……留守は任せても良いかい?」
「今更、確認を取るまでも無いでしょ。心配せず遺跡発掘してください」
春日は家の事なら、一人で出来る程まで成長した。
父親との朝食を済ませると、春日はヘルメットを片手に鞄を背負うと車庫へ向かう。
鍵を開け、シャッターを開く。中は少しオイルと鉄臭いが、車庫には漆黒のボディが光るバイクが妙な威圧感を発揮させていた。
「じゃ行ってくるよ。父さんも仕事頑張ってね」
そう言うと、春日はバイクのエンジンキーをONにする。
キックでエンジンを駆けると、ヘルメットとゴーグルを装着して学校へと向かった。
「そう言えば伝えるのを忘れていたな。父さんは結婚する事になって今日から新しい母さんと春日の姉さんになる人が来る筈なんだが……後でも良いかな?」
栄四郎が独り言を呟く中、春日が運転するバイクは学校へと向かっていた。
その途中、一台の車とすれ違った。助手席に座っていた春日より年上の女性と目が合った。
しかし、そのような事は日常茶飯事、特に気にする事なく、春日はクラッチを握りギアを変えて学校へとバイクを加速させた。
「どうしたの、奈津?」
「うぅん、何でもないよ」
春日とすれ違った車の中での会話、奈津と呼ばれた春日より年上の女性は頭の中で春日の顔を思い出していた。
(さっきの子、可愛かったなぁ。また会えるかな?)
奈津の頭の中では先程の春日の顔を思い出していた。
「ほらっ。もう到着するから準備しなさいね」
「は~い」
気の抜けた返事を返すと車のスピードが緩くなった。
目的地に着いたと言う事なのだろう。
車を降りると一人の男性、春日の父、栄四郎が立っていた。
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