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春日の学校での成績は悪くはない。加えてクラスや学校での信望もある。
真面目な性格なのだが、今回ばかりは先程の女性が発していた目が気になり、授業に集中出来ないでいた。
後ろから見られているかのような重圧感、それによって担任の言葉も耳に入らなかった。
「今日は……早めに帰って休もう」
気分が悪くなり、春日は学校を早退した。
バイクを運転するのには影響が無いので、一人で自宅へと向かう。
いつまで経っても忘れる事が出来ない先程の女性の瞳。
これは勘なのだが、嫌な感じがする事に間違いは無い。
とにかく今は家に戻って休みたかった。
自宅に戻り、バイクを車庫の中へ入れると、入り口の取っ手に手を掛ける。
そこで違和感を感じた。
すでにこの時間帯なら父親は家を出ている筈、それなのに、車庫には知らない車があり、尚且つ、玄関の鍵が閉まっていない。
空き巣にしては堂々とし過ぎている。人目がある中で車を置いていく空き巣など考えにくい。
春日は静かに扉を開いた。
家の中は静寂だった。
そんな中、風の音や自身の心臓の音が煩く聞こえた。
目を閉じ、耳を澄ます。
聞こえてくるのは一階の奥、バスルームからだろう。
それを感じ取った春日は二階の自室に入り、耳を済ませていた。
そして10分程、経過した時、バスルームから聞こえていたシャワー音が止まった。
パタンと扉を閉める音、その足音は階段を上り、春日の部屋に近付いて来ている。
「……………」
春日は部屋で息を潜めているが、そう簡単に見つかるとは思えない。
足音は春日の前で一度、停止した。
そのままドアノブを回し、部屋に入って来られたら、こちらのGAME OVERである。
正体が分からない相手の足音は春日の部屋を通り過ぎ、隣の空き部屋に入っていった。
「……………ふぅ」
緊張が抜け、ベッドへ倒れ込むように身体を投げ出した。
「……安心しちゃダメだよ」
背後から何かに抱きしめられた。
それに驚愕し、振り向いた時、春日の唇に何かが触れた。
それから思考が追い付く前に春日の口の中にヌルリとした何かが侵入してきたのだ。
「ん、んん……っ!?」
突然の行為を拒み、逃れようとするのだが、両手を押さえ付けられて抵抗が出来ない。
「あはっ、キスで感じちゃったの。春日君?」
目の前には朝、すれ違った車の助手席に座っていた女性が面白そうに笑っていた。
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