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奈津のベッドでは春日が気持ち良さそうに眠っている。
「春日って……可愛いのに、感情表現が苦手みたいね」
助けてくれた時の春日はかっこよくて、今の状態の春日は可愛くて……気になって仕方が無い。
春日の寝顔は実際の年齢よりも幼く見える。はだけた服、左肩に見えるのはかなり大きめの火傷の痕、それを亜希は優しく撫でる。
肩の火傷は一生消えない傷痕として残り続ける。
でも、春日は気にしていない。
だが、その火傷の痕を見た亜希は切なそうに、苦しそうな表情を浮かべ火傷の痕を撫でていた。
「……ん……んっ?」
擽ったそうに身をよじる春日の瞼がうっすらと開き、奥の深い瞳は心配そうに火傷の痕を見ている亜希の姿を捉えた。
「あっ、起こしちゃったかな?」
春日は微かに身体を起こし、いつもと変わらない笑顔を亜希に見せた。
「おはようございます。亜希」
一日の始まりは挨拶から、それが春日の始まり。自分でも忘れてしまった自分を探しつつ、皆に好かれる優しい人物。
「おはよう、春日……ねぇ、一つ聞いて良い?」
亜希は春日の肩、火傷の痕に触れる。
「火傷の痕、痛い?」
苦しそうに火傷の痕を見つめる亜希、その真意は分からないが春日は微笑みながら答えた。
「大丈夫ですよ。亜希が気にする事ではありません。痕は残りますけど生活には何の支障もありませんから」
でも、火傷の痕は酷く痛々しい。
最初の頃は酷く痛んだ。火傷の痕を鞭で何度も叩かれ、血が流れるまで何度も……決して消える事の無い痕、だけど、これは奈津を守った時に出来た火傷の痕、奈津を傷付けた代償の傷痕、これは春日のケジメの痕なのだ。
それを亜希に言う事は出来ない。
きっと悲しませる。
きっと奈津に怒る。
そんな状態になるのが嫌で、亜希には話さなかった。
「辛くなったら亜希に言って……お願い、だから!?」
何故、亜希はここまで火傷の痕を悲しんでいるのだろうか?
それは春日も知らない背中の火傷、本人は何も知らないが、父親の話では焚火をしている時に風で舞った火の粉から女の子を守った時に出来た物だと言う。
背中で周りの肌より少し白い程度で気にしていなかったが、その時、一緒に居たのが亜希と言う女の子だと言っていた。
「言った筈ですよ。もう痛くありませんし、生活にも支障は出ません。心配してくれてありがとうございます。ほらっ、涙を拭いて笑ってください。亜希の笑ってる顔を見ると元気になりますから」
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