130人が本棚に入れています
本棚に追加
/86ページ
さすがに限界だったのか、気が付くと僕の変身は解けていた。
しばらくレーダーにも敵の反応はない。
安全だと判断して、相棒もスピードを落とし始めた。
今は海沿いの道を走っている。
「それにしても良く無事だったな、お前」
『トムノ親父二直シテ貰ッタかラナ』
「トムのおやっさんっ!?…生きてたのか」
コイツがこうして動いている事にも驚いたのに、トムのおやっさんまで…。
『ヤツハ殺シテモ死ナネェヨ』
そういえば、コイツを喋れる様にしたのもおやっさんだったっけ。
「違いない」
他愛もない会話をしながら、相棒は何処かに向かって走っている。
懐かしい風の匂いがする。
「昔は…嫌いだったんだけどな」
でも、何故だか今は心地良い。
『オレハ今デモ、オ前が嫌イダヨ』
僕の独り言を相棒が自分の事だと勘違いして拗ねている。スピードが上がり始めた。
フォローを入れないと振り落とされるな、これは。
「さっきは本当に助かった、ありがとう」
相棒がジグザグ走行をやめ、しばらく間を置いてから――
『アンタノ為二ヤッタんジャナイんダカラネッ!』
妙に高い声で答えた。
「…お前また変なモン見ただろう」
どうやら、おやっさんは本当に生きている様だ。
笑い声が風に流れる。
誰かと笑ったのはどのくらいぶりだろう。
太陽が傾いて、車体が空と一緒に紅く染まる。
最初のコメントを投稿しよう!