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それから、カナヘビとハンミョウは毎日のようにお互いのことを話し、そして理解しあった。それは口だけで言う「友達」ではなく、種を越えて真に分かち合おうとする二匹が特別な関係を築こうとしているようであった。
そんな時だった。
アシダカグモの怒声が響いてきた。
カナヘビを罠にかける話をしてから、もうだいぶ時がたっていた。その間、アシダカグモは自分で餌をとらなければならなかった。ハンミョウの運んでくる餌であれば文句の一つも言えるが、自分で捕る餌ではまずいとも言えずに、焦りと苛立ちで半狂乱の状態になっていた。ハンミョウは三日に一度、現在の状況を報告に行っていたのだが日増しに凶暴になっていく姿を見て、初めの頃のあの恐怖が蘇ってくるようだった。
「お前、いつまでも何をやっているんだ。カナチョロごときに。」
アシダカグモのいつもの低い声が、ハンミョウの体全体を震え上がらせた。日は西に傾いてからだいぶたっていて、暗闇が辺りを支配しようとしていた。アシダカグモの姿は居場所がかろうじてわかる程度だった。ハンミョウはその震えを何とか止めて言い訳の一つでも言おうとしたが、低い声はこう続けた。
「俺様がお前を生かしてやっていることを忘れて無いだろうなあ。いつでもお前を喰えるんだぜ。」
不気味に青い目が閃光のように光った。ハンミョウは動けなくなった。目の前で親兄弟を殺された時と全く同じだった。ハンミョウは決して逃げられないことを悟った。このアシダカグモに逆らっては自分は生きていけない。目の前の肉親の仇に睨まれただけで恐怖で体が動かなくなってしまうというのが何よりの証だ。自分の臆病さに腹立ちながら、悔し涙をぐっとこらえてハンミョウはアシダカグモを見つめ返した。
「すいません。もう少し待ってください。」
ハンミョウは振り絞るように声を出したが、聞き耳を立てていないと夏の虫の声にかき消されそうな、か弱い声だった。
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