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「何だ、元気がないな。ガハハハ。かわいい奴め。」
アシダカグモは皮肉を込めて言った。ハンミョウの必死の態度が、アシダカグモにはまんまと怖がっているように見えたらしく、幾分、機嫌を良くしたようだった。すると、アシダカグモは今度はえらく凄んでこう言った。
「もう少し、もう少しと言って、今までかかっているじゃねえか。三日後だ。それ以上は待てん。それまでにしかける罠も考えておけ。」
アシダカグモは虫くさいゲップを一つすると下品に笑いながら暗闇に消えていった。カナヘビとの関係が、破滅へと向かう秒読み開始を知らせるような不気味な笑い声がいつまでもハンミョウの耳に響いていた。
ハンミョウはゆっくりと水瓶の方へと近づいていった。日はもうだいぶ高くなっていた。ハンミョウは前の晩、一睡も出来なかった。アシダカグモの言った期限まで、どうすればよいか、ずっと考えていた。しかし、それはどうやってカナヘビを罠にかけるかではなく、どう言い訳をするかであった。そして、結局結論がでないまま朝をむかえ、重い足取りでカナヘビの所へ来たのである。
今までキョロキョロと辺りを見回していたカナヘビはハンミョウの姿を見つけると水瓶から身を乗り出した。やっと来たかと声をかけようとしたが様子が少しおかしいことに気がついて、水瓶に登ってくるまで口を閉ざした。
高い日は入道雲に時折隠れながらも辺りをまぶしいくらいに照らしていた。無言の時が続いた。ハンミョウは水瓶に登ってからずっと縁に腰掛け、水瓶の中に目を落としている。頃合いをみて何とか話しかけようと、その姿をカナヘビは黙って見ていた。
ハンミョウのきれいな斑模様が光を反射して輝いていた。カナヘビは自分の体と見比べてため息をついた。
「何て醜いんだ。」
誰に言うでもなくカナヘビの口から言葉が漏れた。退屈しのぎの独り言のつもりだったのだが、ハンミョウが予想外の反応を示した。
「俺に言ったのか?」
鋭い目でカナヘビを見上げた。何か思い詰めているようにも見える悲しい目でもあった。すかさず、カナヘビは弁解した。
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