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カナヘビは母親の死を乗り越えるために、単身、旅を続けていたのだった。しかし、まだ若いカナヘビは、母親の死を乗り越えるどころか、その死の意味すら理解できないこともあった。今まで片時も離れずに守ってくれていた母親の暖かさを思い出すだけで涙が溢れ出してくる日々が続いた。それを旅することで紛らせようと思い立ったのである。しかし、苦難の連続で、何度も挫折しそうになった。鳥や蛇などの襲来に怯え、飢えに苦しんだ。そして、皮肉なことにいつしか母親の後を追う旅のようになっていた。
しかし、その旅でカナヘビにとって大きな出会いがあった。
健気に生きる昆虫達との出会いである。
その昆虫達の多くは親を亡くしていた。驚いたのは、その昆虫達はカナヘビのようにいつまでも親の死を引きずっていないということであった。すぐにでも自分が同じ目に会うという危機感から、いつまでも親のことを考えられない、というのも理由の一つであったが、一番は「友達」の存在だった。昆虫達はお互いに助け合い、団結して外敵から身を守る。昆虫達にとってはごく自然な行為なのだが、カナヘビの目には、親を亡くした悲しみを癒し、生きる力を分け与えてくれる存在として「友達」というものが映った。カナヘビが昆虫を友達だと思うようになったのは、それからだった。また、「昆虫を食べる」という本能を「友達だから」という大義名分をつけて自制する意味合いもあったのだろう。カナヘビはそれから意識的に昆虫に対して「友達」という言葉を使うようになった。カナヘビにとっては母親の死を乗り越え、独り立ちする心の支えとして、どうしても必要な存在であった。そして、やっとその「友達」を見つけたという思いで、ハンミョウに告白したのであった。
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