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「さぁ、さぁ、こちらですよ。」
ハンミョウは白く乾いた地面の上を少し飛んでは止まり、後ろを振り返りながら先を急いでいた。 やや後ろを飛び跳ねて着いてくるトノサマバッタは真夏の熱気にふらついていたが、安堵の表情を浮かべた。
「いやあ、本当に助かりました。もうだめかと半ば諦めかけていたんですよ。」
ハンミョウはまた、トノサマバッタの方に振り返り静かに微笑んだ。しかし、その微笑みには真夏の日差しの中でも一瞬ひやりとするようなものがあった。
(かわいそうに。ここで迷ったのが運の尽きだ。そして、もっと悪いことに俺に出会ったんじゃあ、もうどうにもならねえな。)
乾いた土からは熱気が湯気のように立ち上り、遙か上からは太陽がぎらぎらと容赦なく二匹を照らしていた。ハンミョウはその日差しを避けるように地面すれすれを低く飛んでいた。
ハンミョウの斑模様の羽が時折、日の光を反射させてきらきらと虹色に美しく光った。後ろをついてくるトノサマバッタにはそれが希望の光のように見えた。きれいな羽ですね、などとハンミョウに話しかけようともしたが、トノサマバッタはもうその気力もないほど衰弱していた。
突然、脇の草むらからアオダイショウがぬらりと姿を現した。が、二匹には目もくれずに大きな廃屋の方へと進んでいった。
「いやー、危ないところでした。私がここで止まっていなければどうなったか。本当に良かった。さあ、もうすぐですよ。」
ハンミョウも驚きはしたが、アオダイショウが虫を襲わないことは百も承知だった。しかし、トノサマバッタに一緒にいたから危機を回避できたのだと思わせようとわざと大げさに言ったのだ。衰弱しているせいか、トノサマバッタはまんまとその目論みどおり、ハンミョウにすがりつくようにしてきた。そして程なく、二匹は大きな水瓶のある木陰にたどり着いた。
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