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すると、カナヘビはふいに両肩を掴んだかと思うと、ぐっとハンミョウを抱き寄せた。まずは拳の一つ二つ飛んでくるものと思っていたハンミョウは驚いて目を見開いた。カナヘビは涙で潤んだ、優しい目でこう言った。
「辛かったろう。悲しかったろう。今まで気づいてあげられなくてごめんね。」
ハンミョウは唖然とした。こんなに優しく接してくれたのは親兄弟を亡くしてから初めてのことだった。そして、悪者であるはずのハンミョウに「気づいてあげられなくてごめん」との言葉はハンミョウの胸を熱くした。先程までの重石がどこかへ吹っ飛んだ思いがした。ハンミョウは一度、力強く抱き返すと、今度はグッと体を突っ張り、カナヘビの顔を見てから振り絞るような声で言った。
「でも、これだけは分かってくれ。俺は君を殺したくない。君を助けたい。本当は誰よりアシダカグモを憎んでいるんだ。」
カナヘビは大きく首を縦に振り、その涙ながらの声に答えた。
「ああ。分かっているさ。だからこそ、僕は、そのアシダカグモが許せないんだ。友達をここまで苦しめて、こんなにも優しい君に、罠にしかけるような企みをさせるなんて、絶対に許せない。」
「君は逃げてくれ。後は俺が何とかする。」
「逃げるもんか。僕らでやっつけるんだ。絶対に許せない。」
ハンミョウはその言葉に自分を恥じた。カナヘビは無条件で自分を信用してくれている。そして、自分以上にアシダカグモに対して敵意をむき出しにしている。
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