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「ありがとう。でも、俺は何て臆病なんだろうなあ。話を聞いただけの君でさえ、そんなにも勇敢に立ち向かおうとしているのに、俺ときたら、睨まれただけで動くことも出来なくなってしまうんだ。・・・情けない。」
自分の不甲斐なさにこぼれ落ちる涙をハンミョウは止められなくなっていた。カナヘビは、しばらくの間、ハンミョウをなだめていたが、ふと、何かを思い出した。
「睨まれただけで動けなくなる。・・・待てよ。・・・どこかで聞いたことがある。」
カナヘビはハンミョウの背中に手をやったまま、ぶつぶつと言った。すぐそばのハンミョウでさえ、聞き取れないほどの声だった。
しかし、次の瞬間、耳をふさぐほどの大きな声がした。
「あっ。・・・!」
カナヘビはそう叫ぶか叫ばないかのうちに、するすると水瓶を下りていった。呆然とするハンミョウに向かってカナヘビはまた大声で叫んだ。
「僕、ちょっと思い出したことがあるから、今から出かけるよ。たぶん遅くなるから、また明日、この場所でね。」
カナヘビの表情はさっきまでとは一変、笑みが溢れていた。
夏の日はようやく傾きはじめ、幾分風が吹いてきた。しかし、ミンミンゼミが雨のように鳴いていて、少しも涼しい気がしなかった。ハンミョウはカナヘビの背中が見えなくなるまで、黙って見送っていた。
アシダカグモの言っていた期限まで後、二日である。
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