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カナヘビは深い水瓶の底までゆっくりと、静かに沈んでいった。すると、カッと目を見開いて今度はゆっくりと水面に上がってきた。
「プハー。さっぱりした。これをやるって決めて、歯を食いしばって頑張ってきた甲斐があった。」
ハンミョウはカナヘビの無事に安心したのと、心配した自分が馬鹿らしく思えたのとで思わず吹き出した。しかし、それと同時に泥だらけの格好と、傷だらけの体の訳が気になって仕方がなかった。
「ずいぶん遅かったけど、どうしたんだい?それに、その傷。何があったんだい?」
カナヘビは目を輝かせて、ハンミョウに答えた。
「分かったんだ。君は、決して臆病者なんかじゃないんだ。怖くて動けなくなった訳じゃなかったんだよ。」
その弾むような声とは裏腹に、ハンミョウはますます混乱した。
「どういうことだい?落ち着いて、もっと分かるように話してくれないか?」
ハンミョウは興奮するカナヘビを手のつけられない子供の相手でもするようになだめた。カナヘビはまだ荒い息づかいをハァ、ハァと整えると、落ち着いてというハンミョウの言葉を無視するように息の続く限り、一気に話し始めた。
「僕は、あの後、前に住んでいた場所まで行ってきたんだ。そこには、物知りで有名なミドリガメのおじいさんがいるんだけど、昔、こんな話を聞いたことがあるんだ。なんでも、睨んだだけで体を動かなくさせる妖術があるっていうんだ。最初にその話を聞いたときは、まだ僕は小さくて、よく理解できなかったから、もう一度、よく説明してもらおうと思って、そのおじいさんに会ってきたんだよ。そのアシダカグモの目は光っていたかい?何色だった?」
「あぁ、青く光っていたよ。辺り一面を覆うくらいにね。たしか、その光を見ると体が動かなくなってしまうんだった。・・・!もしかして、それが妖術なのかい?」
「そう、そうなんだよ。ミドリガメのおじいさんが言うには、アシダカグモの一族に代々伝わる、居竦みの妖術で、『影縫い』っていうらしいんだ。その青い光を見てしまうと、ある一定の時間は動けなくなってしまうんだ。」
「そ、それじゃ、僕は怖くて動けなかったんじゃないのかい?」
「そうさ。君は臆病者なんかじゃないんだ。」
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