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長い長い、かなりキツい仕事を終えて、俺は鞄を手にした。
「……そういえば制服だったわね」
「急いでたんで、そのまま来たんです」
彼女は俺の元へ歩んできた。
目の前で立ち止まり、緩いネクタイに手を伸ばした。
「曲がってる」
「あ、ありがとうございます」
「……こんな緩ければ、あまり意味ないけどね」
確かに、と俺は笑って、小さく頭を下げて、背中を向けた。
この瞬間が大嫌いだ。
出来ることなら、ずっとここにいたい。
……たとえ、家事手伝いでも。
「私も、今日はもう帰ろうかしら」
俺は驚いて、彼女を見た。
いつもは深夜に帰る彼女が……こんな時間に?
「何よ」
「いや……どうしたんすか?」
別にいいじゃない、と彼女は真っ黒なロングコートを羽織った。
……男から見ても、この人はカッコいい。
「レン、何か奢ってあげようか?」
「え!マジすか?」
彼女は顎で促すと、部屋を出て行った。
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