レン視点

5/7
前へ
/27ページ
次へ
長い長い、かなりキツい仕事を終えて、俺は鞄を手にした。 「……そういえば制服だったわね」 「急いでたんで、そのまま来たんです」 彼女は俺の元へ歩んできた。 目の前で立ち止まり、緩いネクタイに手を伸ばした。 「曲がってる」 「あ、ありがとうございます」 「……こんな緩ければ、あまり意味ないけどね」 確かに、と俺は笑って、小さく頭を下げて、背中を向けた。 この瞬間が大嫌いだ。 出来ることなら、ずっとここにいたい。 ……たとえ、家事手伝いでも。 「私も、今日はもう帰ろうかしら」 俺は驚いて、彼女を見た。 いつもは深夜に帰る彼女が……こんな時間に? 「何よ」 「いや……どうしたんすか?」 別にいいじゃない、と彼女は真っ黒なロングコートを羽織った。 ……男から見ても、この人はカッコいい。 「レン、何か奢ってあげようか?」 「え!マジすか?」 彼女は顎で促すと、部屋を出て行った。
/27ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加