物語りのはじめに。

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「ねぇ、拓は彼女つくらないの?」 薄暗いbarでやけに意味あり気にたずねられて、俺は苦笑する。 「ないよ」 ほら、とたんに残念そうな顔をする。 女が『彼女つくらないの?』って聞く時はだいたい、『私なんて彼女にどう?』って意味が含まれてる。 冗談じゃない。 少なくとも今の俺には「彼女」なんて重荷なだけだ。 ひとりの彼女より、たくさんの女友達。 その方が人生楽しいだろ? ―大久保拓。 俺の名前だ。大学を出たばかりの社会人一年生。 昔から要領は良いせいか、社会人になっても今のところ全てが順調だ。 むしろ、手ごたえのなさを感じるくらい。 新社会人って、もっと、胃に穴が開くくらいの苦労やストレスがあるんだと思ってたけど、拍子抜けだ。 女だって不自由はしてない。 煙草に火をつけて加えると、テーブルの上の俺の手に女が細い指を絡めた。 「どうしたの…?」 「ねぇ、年始会社休みなんでしょ?良かったら―」 「あ、俺年始は同窓会があるんだ。悪い。 それと…仕事で忙しくなるから、今後会えなくなるよ」 サヨナラ。 あんたは面倒そうだから…もう会いたくない。 俺はきょとんとしている女に、にこりと笑いかけて席を立った。
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