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周りには複数の光の玉と狐火。軽やかな足取りで、不安定な岩場を蹴り進む。
そして、下手くそな鼻歌が聞こえた。
「主~、うっさい」
その毒舌に軽やかな足取りがピタリと、止まった。
ばさりと、舞う漆黒の衣。
「酷いですよ」
中性に、愛嬌と抱擁を持ち合わせた顔立ち。
そして、右の頬にはある者である証があった。
「やっと、主だと認めやったんだ。感謝しろよぉー、アルジェリア」
ニヤリと、悪巧みを考えている時の顔。
「アルジェリアなんて……」
今にも泣き出しそうな、涙が葵の双眸。
「メソメソしてんじゃねぇよ!ボケ、主」
太い毛並みの尻尾が、顔面を殴った。
「殴らないで下さいよ!」
その時に、うるさいベルが二人の動きを止めた。
「最悪なタイミングで来やがる‥‥‥」
身のこなしは、軽く肩に楽々と乗る。
金と銀の瞳が煌めき小さな渦を起こす。
「名門の出身者ですよね、ディって」
名門の出身者という単語を聞いた言葉に、折っていた耳が瞬時に立った。
「アル、後で覚えていろよ」
渦から出て来たのは、黒電話。
そして、受話器が独り手に浮いた。
《遅いです。ただちに回収してください》
三秒程の一方的な一文で、プーップーッ。
「ディエール・アロ様に対して、態度を考えやがれー!!!ボケ新人ヤロー!!!」
美しい毛並みが逆立て、フーッと不満を明らかにするやり口は、新人の証拠だ。
黒電話からは、長い紙がビラビラと出た。
「仕方ないですよ、ディ。この世もあの世もは、乱れていますから‥‥‥」
黒電話に出なくて良かった‥‥と、安心しながら。
ビッ紙を切った。
「神と創造者が、行方知らずだしな」
溜め息混じりでの答え。
首輪にぶら下がっている、銀色の鈴がりーん。と鳴った。
(心配からなんですかね、その態度は‥‥)
相方の様子を横目で見ながら、何もない両手を広げた。
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