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本来なら暗い真夜中のはずだ。
しかし都市の町中はネオンや蛍光灯の明かりで昼間のまま。
とある屋上の一角でドラマのような一コマが現実に起こっていた。
****
漆黒の上着は、スピードに押されて靡く。
「無理にでも介入の許可は出ていますが……」
主には今だに戸惑いが見られる声色。
「うだうだ言うな。死なれてもみろ、この町が吹っ飛ぶ」
肩に乗せた黒猫は、長い尻尾で整った主の顔を叩いた。
「──死にたい」
ビル風に巻き上げられて、毛先は揺れる。
制服を着ているから、中学生か高校生と言う者。
担任の教師のような大人と同じ様に制服を着ているのが数名。
「邪魔しないで」
鳥が翼を広げて羽ばたこうとするように。
一杯に腕を広げて、手摺から向こう側に。
一人の少女が何もない場所へと一歩、前に出た。
正に自殺の直前。
「ふざけんなぁぁぁぁぁあああー!!」
風を切るというか、空気や全てに割り込む声。
ヒュュュール。高速の落下物特有の、空気を切る音。
高層マンションの三十階の屋上に、何もない空から降って現れた。
「あらら、間に合いましたね。というか、直前」
二十代に入ったばかりか、青臭い顔立ち。
肩には、ふわふわの毛並みをした黒猫。
「お前──」
声がしたのは、ドスが来た怒りの声。
それは、肩から降りた黒猫。
「ふざけんじゃねえよ!!」
現実的ではありえない登場の仕方に、呆然としている自殺直前の少女。
飛ぶと少女の頬へ、尻尾でのびんた。
「まだまだ青くもなってない人間ごときが、安々と捨てるなら生を受けたんじゃねぇよっ!!」
平手よりも痛々しい音を効かせて、フッーと毛並みを逆立てた。
「ディ、仕事を忘れずに」
「うるせえ!黙れっ!!」
ギラギラとした殺気が込められた視線と眼力に逆らえる人なんていないと思う。
「春日 咲 (カスガ サク)」
主とその他を固めると、猫から耳以外は人型へ変化する。
青い分厚い本が、掌に広げられていた。
「えーと、死にたい理由………」
独りでに本が開いて、ページを捲り始めた。
自然に緊迫した空気になり始めていた。
「──はっ!!」
そして、少女に本を突き付けた。
「良いか?この世で一番苦労して不幸で理不尽なんのは赤ん坊だ」
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