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気がつくと、鉄のように、コンクリートのように冷たいカーテンの隙間から小さな光りの筋が零れているのでした。
忌むべき陽光もか細くなれば可憐で許せる光へ変わります。傷ついた枯れ枝ような手首を光の筋にあてると…茶色い筋が赤く紅く染め上げられ、穏やかなような、ざわざわとしたような、悲しいような、寂しいような気持ちになるのでした。
潤んだ瞳を光に戻すと、暗闇の海の中、照らし出された小さな埃がゆっくりと漂っています。それを見て深海のようだなぁと思うのでした。
部屋がざわついているような、そんな時は片隅に沈んでいる教科書とノートが問いかけてきます。
「これでいいの?」
しかし、それは私にとって聞き飽きた言葉でしかなく、擦り切れて小さくなった心に届く事はありませんでした。
最近はめっきり姿を見せなくなっていた色鉛筆達がベッドの下から顔を覗かせ
「おいでよ。」
と急かします。
しかし、私は逃げるように宙を見つめ、自身の思考が天井の片隅に溶けていくのをひたすら眺めるのでした。
やがて肩を落とし、片隅へ消えていく色鉛筆達。
何も感じませんでした。
だってそうでしょう?
教科書や色鉛筆に一体何ができるの?
私の気持ちが解るっていうの??私と同等でもない癖に…。
こんな日は荒れた私が部屋に居るのでした。
一通りの自問自答を繰り返し、何とか落ち着いたら布団に潜り、あのか細い光が私の手首を照らす時を思いながら眠りに落ちるのを待つのでした。
しばらくじっと目を閉じていたのですが、やはり眠る事ができずにいました。溜め息をつきながら目を開けると、薄暗いはずの部屋を青みのある灰色が満たしています。美しいものだなぁと辺りを見回していると、ベランダの方からコツ…コツッ…と、音が聞こえてきました。
窓に近づき恐る恐るカーテンをめくると、硝子に一匹の蛾が止まっていました。
いつの間に部屋に入り込んだんだろう?私は首を傾げました。
羽毛のような羽に描かれた二つの眼が私を見ています。それはお世辞にも美しいとは言い難く、どちらかと言うと気味の悪いものでした。
私は窓を開け、二つの眼を両手で優しく包みました。羽をばたつかせた眼は手の平にゾワゾワとした感触を植え付けます。
私はゆっくりと、開いた暗闇へ眼を解き放ちました。さようなら、だってあなたは此処にいるべき者ではないもの。
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