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それがとても荒れるようには見えなかった。
「こんなに良いお天気ですが」
「大荒れになるわよ、何もかも奪い去るような荒れになるでしょうね…」
うっすらと笑みを浮かべてアンヌは受け皿にカップを置いた。
その笑みがシャルロットの脳裏に焼き付き、いつまでも消えなかった。
「さ、部屋に戻りましょう。後は他の者に任せて…話し相手になってくださる?」
軽やかな足取りでアンヌは薔薇の植えられた小道を歩いた。
そんなアンヌを見るのは久しぶりでシャルロットは眩しく思いながら自然と笑みを浮かべた。
「綺麗ね、私達の生まれ年に植えられたこの薔薇も大輪を咲かせるようになったわ」
ええ本当に見事ですわ、と言おうとシャルロットは口を開いたが次の言葉に目を見張った。
「この血のような赤…」
シャルロットも花弁に目を向けると背筋が凍る程に美しく、本当に滴る血のように赤い花びらだった。
「これだけ見事な花をつけるのは庭師の手入れの賜物ですわ」
気を取り直してその場を取り繕おうとしてシャルロットは言ったが、アンヌの表情は固い。
「…そうね、見事な蕾」
アンヌは手のひらに乗せたかと思うと、ひ弱な蕾をぐしゃりと握り込んだ。
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