超ベタ恋

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 暖かいのか冷たいのさえわからない、けれど優しい風がとある教室に流れた。夕焼けが、中に残っている二人の生徒を照らし出す。 「なあ、ミキ」  机に突っ伏したままの少年が、教卓の前に立っている少女を呼ぶ。なに、とミキは答えた。 「オレたち、卒業したんだな」 「そうね。この中学校ともお別れね」 「……寂しいな」 「……うん」  ミキは少年に向かって歩みを進める。思い出をふみしめるように、何かを確かめるように。やがて、少年の前の席に腰をおろし、そのしなやかな手をそっと握る。 「ちょ――ッ」 「……にぎるくらい、別にいいでしょ?」 「うん、まあ」  ミキはフフッと笑う。とても穏やかな笑顔を浮かべた。 「ねえ、ケン」 「ん」  ミキは手を握ったまま、方頬をケンの机にのせる。 「私は、さ。ケンとずっと一緒にいたいよ?」  ケンは赤面した。覗き込むような上目遣いをする少女とは、幼馴染ではあるが恋人同士ではない。  ――なのに、こんなセリフを。  これはもしかして。ケンは思う。  告白なのかも、しれない。 「……ッ」  どうすればいいのか。不器用で、そういった経験のない彼にはどのような対処をすればベストなのかなんてわからない。けれども、一つだけ思いつくことがあった。  それは―― 「……ミキ。オレも、お前と一緒にいたい。好きだ、ミキ」  自分に素直になること。ありのままの想いを伝えること。  とても難しいけれど、とても簡単なこと。 「ケン……」  ミキの瞳が潤む。  ――うれしい。心の中の声が、思わず外に漏れる。  そして、彼女は立ち上がると―― 「ミキ……?」  いぶかしぐ彼に顔を近づけて。 「――ん」  優しく、ふれるだけのキスをした。  ケンとミキは顔を離すと自分たちの行為を思い出し、カッと頬を朱に染めた。互いに恥ずかしがって、どう声をかけていいかさえわからない。  しかし、しばらくして赤い頬のままのミキがいった。 「これからも、……よろしくね?」 「……ああ!」  応えるケン。  そうして二人は、声をだして笑いはじめた。    夕日は、まだ沈みそうにはない――。
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