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〈1〉
「ハールーミーッ!もう勉学は飽きた、外で遊ぶのじゃー!」
快闊ながらも気高い雰囲気を纏う少女は、大声で叫ぶと書物を投げ出し、両手を伸ばし机に伏せる。
「王女殿下、先程休憩を取ったばかりでしょう。もう十三歳におなりだというのに、落ち着きのないところは本当に女王陛下と瓜二つですね」
ハルミと呼ばれた王女の教育係である青年は、端整な顔立ちを崩さずに切り返す。
彼は女王に対する不敬罪にあたりかねないことをさらりと言ってのけたが、生憎ここにはそれを咎める者はいない。
「なんじゃと!?そなたはまた、ずけずけと!」
そこまで言い返すと、王女はハルミの発言に違和感を覚え、言葉を続ける。
「待て。今何と申した?母上は立派にこの国を治めておられる。決して落ち着きなくなどなかろう?」
常日頃から母である女王が善政を敷いているのを見ている王女は、怒ることすら忘れ純粋な疑問をハルミにぶつけた。
「女王陛下も、生まれながらにして女王だったわけではない。そういうことですよ」
ハルミに上手く丸め込まれた気がしないこともないが、それは当然のことだと王女は納得した。
だが、それと同時に彼女はまた別の疑問を抱く。
彼もそれを察したのだろうか。パタリと静かな音を立て、分厚い書物を閉じる。
少しばかり気まずい空気が漂う部屋の中、開け放たれた窓を飾る薄紅色のカーテンだけが、ひらひらと揺れ動いていた。
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