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そう。ハルミの返答は王女にとって理解しがたいものだったのだ。
王女殿下は女王陛下のお若い頃によく似ていらっしゃる――と老臣達に言われる分には、王女も素直に嬉しく思う。
もっとも、王配殿下に似ていらっしゃれば、穏やかで女性らしいご気性におなりだったでしょうにーーとは、もっと言われているのだが。
しかし、この兄のような青年にまで老臣達と同じことを言われるとは思ってもみなかったのだ。
彼の年齢は定かではないが、少年の面影を残す中性的な顔立ちや、艶のある髪や肌などから考えると、二十歳前後と想定される。少なくとも、女王の幼少期を知るはずのない若さであることは確かだった。
「そなたも母上も、隠しごとばかりじゃ」
「僕はともかく、女王陛下の隠し事と仰いますと?」
王女がすねれば、ハルミは間を置かずに相槌を打つ。まるで彼女の次の言葉を待つかのように。
「母上は――」
王女が何かを言いかけた時、扉を二回小さく叩く音がした。
「どうぞ」
ハルミがそう言い終えぬうちに、見るからに高貴そうな女性が扉を開き、部屋へと入ってくる。
「母上!」
そう、この女性こそが王女の母である女王メルヴィーナ。
彼女は今のやりとりが母に聞かれていたことを恥ずかしいと思ったのか、顔を赤らめて俯いてしまった。
「よいのですよ、ジュリアード。ハルミも人が悪い。わらわがこの部屋に近付いていたことくらい、そなたは気付いていたでしょうに」
「女王陛下。僕の性格の悪さは、あなたが一番ご存じでしょう?」
そう悪びれもしない彼の言葉を女王は、呆れと諦めが入り雑じったような表情をもって肯定したようだ。彼女は向き直って、一人娘であるジュリアードに向かって微笑み、語りかけた。
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