始まりの夜

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 何の変哲もないただの夕。ただと言っても無料という意味ではない。ただし美しい夕焼けはいつだってプライスレス。町並みは茜色に染まっていた。  そこはただの一軒家。本当に特に変わった所の無い一軒家。一つ変わった事を述べるのならば、近所のおばさま方が「あそこのご主人、いろんな意味でヤバいらしいわよ!」と噂をするぐらいであった。本当に特に変わった所の無い一軒家である。  そんな前原家で、今、とあるイベントの準備が進められていた。 「ハッピーバースデー美奈!」  その言葉と共にパァンとクラッカーが打ち鳴らされる。中から銀の紙が吐き出され、キラキラとパーティ感をあおっていた。 「…お父さん。せめてそれはお母さんと美羽が帰って来てからにしてよ……今日で何回目なのよそのセリフとクラッカー……」  美奈はゲンナリと返事をした。実は朝から数えて28回目なのだ。いい加減うざったい事この上ないのである。 「何を言う!僕はもう美奈を祝いたくて祝いたくてしょうがないんだ!」 「だからってクラッカー買いすぎでしょ!見てよこの部屋!お母さん帰ってきたら絶対怒るよ!?」  パーティ感をあおるキラキラは、すでにリビングのほとんどに絡み付いている。もしこれが人間なら警察を呼ばれても仕方のないような絡みようだ。  時刻は5:20。パーティの準備は本日4回目のリビングの掃除で滞っていた。
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