425人が本棚に入れています
本棚に追加
「懐仁様…離れたくございません」
「宮は離さない………」
それきり定子の静かに涙する声しか道長の耳には入ってこなくなった。
道長の手が自然と御簾の端に伸びていた。
道長の目に、室内の若い恋人同士の包容が飛び込んでくる。
絡みあった体、触れ合う唇。せり上がったお腹を労りながらも最愛の后宮を胸に抱いた主上は、道長が見たことのない男の顔をしていた。
いったい誰だこれは……道長が今まで知っている若い雅やかな青年帝の姿はそこにはなかった。
鋭い眼光をし、何者の邪魔をも許さない一人の男がいた。
この男より定子奪わねばならない。道長の本能が訴える。
御簾の端を握り締めた手に力がはいった。
最初のコメントを投稿しよう!