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「主上、わたくしの主上…お別れでございます」
「宮を…どこにも行かしたくない…」
若い青年帝の口からもどかしげに唸る言葉
切ない思いが恋人達の胸の内を占めた。
定子の頬につたう滴に帝は何度も口を這わした。
「よいか、定子は私の唯一人の后、中宮。母や道長が何をゆっても必ず私の内へ戻す。中宮は私のものだ」
「定子は主上のものです。この先に何がおころうとも…」
「今は…夜が明けるまでは中宮が…宮が私の腕の内から出ることは許さない」
夜の御殿隣室の上御局には、清少納言ら女房らが控えていた。
女房らの耳にも若い二人の睦言が何時までも途切れることはなく聞こえてくるのであった。
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