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俺があと10年遅く生まれていたら…
詩織があと2・3年早く生まれていれば…
俺が教師じゃなければ…
そんな事ばかり頭に浮かんでは消える。
『中村…お前は俺に何を言わせたいんだ?』
『言わせたいんじゃない…。先生の本当の気持ちを知りたいんだよ…。』
俺の本当の気持ち…。
『…中村は俺にとって…』
大切な存在で、好きな女。
『…生徒でしかないよ。』
だからこそ言ってはいけない。
『解った…。もうここには来ないから。』
これでいいんだ…
これで……
『困らせて済みませんでした。先生…さようなら。』
そう言って上げた顔は泣きながら、無理矢理な笑顔を作っていて見るに耐え難いものだった。
詩織は俺に背を向けて、ドアに足早に向かう。
『しっ……』
呼び止めて何を言うんだ?
もう決めた事じゃないか。
詩織を苦しめるだけ。
俺は出しかけた手をギュッと握り締め、静かに下に降ろした。
バタン…
ドアが締まる音がやたらと大きく聞こえた。
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