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私がおずおずと大人用の診察台によじ登るようにして、その小さな身体を定位置に収めると間もなく、薄桃色の服を着たあの女性がにこにこしながらこちらへやってくる。
私の顔を覗き込んでにっこりと微笑むと彼女は、いつのまにか診察台から垂れ下がっていた幅の広いベルトでしっかりと私の身体を固定し始める。それは手慣れた手つきで、さもこれが当たり前というかのように、事もなげに。
私は何故こんなことをするのか問い掛けることもできない程に緊張し、より一層身体を強ばらせながら、されるがままになってしまう。
白地にぽつぽつと穴の開けられた、ジプトーン貼の天井吸音板の一点をぼんやりと見つめながら、私は早く治療が終わって夕食の香を漂わせながら私を迎え入れてくれるであろう、見慣れた玄関の扉を開ける瞬間を想像し、ひたひたと忍び寄る恐怖を必死で追い払うことに全力を尽くしている。
『早く終われ!早く終われ!痛みなんか感じる前に!早く終われ!早く終われ!そうしたら家に帰れるんだから。早く終われ!早く終われ!今夜からちゃんと歯磨きするから。早く、早く……。』
祈るような気持ちが、早鐘のように鳴り響く心臓とともに谺する。
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