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† † †
「宮島くーん。中に入ってくださーい。」
不意に名前を呼ばれ、私は初めての診察室にどきどきしながら、メッキの剥げかけた元は金色であったであろう真鍮のドアノブを握り、右へ半回転、そして軽く加重をかける。
白い塗装が角部から落ちかけたドアは抵抗なく、きぃ、と小さな音だけをたてて私を迎え入れるように開く。
未知の空間に足を踏み入れ、私はおっかなびっくりできょろきょろと辺りを見回す。
「一番奥の椅子に座って、ちょっと待っててくださいねー。」
受付の裏手の辺りで所在なくしていた私に、薄桃色の制服を着た女から否応無しの指示が出される。
三台の診察台がスポットライトのような、徨々と輝く照明に照らされながら等間隔で並んでいる。
一番手前の診察台には、黒い靴下、黒いズボン、黒いセーターを身につけた黒い髪の男が、ぐったりとした様子で横たわっている。
『待ちくたびれて寝ちゃったのかな。』
微かに黒い男の腹が上下しているのが見てとれた。
『なんだか随分待たされたもんなぁ。あぁあ、五時からのテレビ、間に合わないよなぁ。』
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