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ドアからたかだか数メートルの距離だというのに、目的地はなんと遠く感じられるのだろうか。厳かなる診察台は、早くおいでと私が腰を下ろすのを静かに待っている。
そして私の震える二本の足は、最前目にした光景を振り払っては思い出す、何とも不毛な脳の悪戯によって一歩の速度を上げることができずにいる。相変わらず背中に感じられる視線は、私の動きを監視するかの様に付きまとったままに。
黒い皮張りの診察台は、座り心地が良さそうとはお世辞にもいえないが、身体に沿うような緩やかな傾斜を保ちながら、ライトに照らし出されている。
そしてその傍らには金属のワゴン。幼い私には、いつか深夜の恐怖映画でちらりと見てしまったような拷問道具にも思える器具が整然と並べられ、それはまるで魔女狩りが神の名の下に行なわれていた証明であるかのように、ただ清潔に、厳粛に、きらきらと輝きながら綺麗に鎮座している。
沈黙の診察室に、ごくり、と生唾を飲み込む音が思いがけず響き渡る、とはいえ、それはきっと私の脳内だけなのだろうけれども。
それを合図に、有り得べくはずのない映像が、私の思考のなかに鮮やかに浮かび始める――。
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