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先頭から順に走り出すパトカー。それを独り警察署の入口で見送る岸田。
羽織った黒いロングコートの襟が風で暴れている。警察署の入口天井に備え付けられた蛍光灯は汚れ、その黄色く濁った明りが岸田を不気味に照らしていた。
僕の乗るパトカーもゆっくりと動き出す。窓ごしの岸田がスローモーションの様に流れていく。
岸田は真直ぐに僕を見ていた。そして口元が動く。
僕に読唇術なんて能力は無いが、岸田の伝えたい事は理解した。
振り返り後ろの窓から小さなっていく岸田を見つめる。岸田も動く事なく僕に視線を向け続けていた。
お互いが見えなくなるまで……。
僕は一呼吸置いて前を向く。バックミラー越しに刑事さんが『シートベルト』と装着を促す。
慌てて腰へベルトを回す僕に、刑事さんが話し掛けてきた。
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