第三章・―捜査開始―

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 それに気付いた井原が慌てて後につこうとするが、急に立ち止まった令に振り返られ、手で制されてしまった。 「あ、井原君はあのベンチで待ってて。すぐ戻ってくるからさ」  そして返事も聞かずに、近くにある自販機から珈琲を買ってくると呆然としている井原に手渡してから、主婦の輪へと近付いて行く。 「……ねぇ。本当、お気の毒に」 「警察にも相談してたんでしょ? 何してたのかしら、警察は」  段々と会話の内容がはっきりしていく中で、やはり昨夜起きた殺人事件を話題にしているようだと確信する。  主婦達は話に夢中でまだ令に気付いておらず、声を潜めながらお互いが持つ情報を共有していく。 「千夏さん、ストーカーに怯えている時に言っていたわ。しつこいのは一人じゃないのって」 「へぇ。そうなんですか?」  主婦の一人が重要と思われる言葉を放ったところでタイミングを見計らい、にこやかな笑みを浮かべた令が会話に参加する。
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