ゆずれない気持ち

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九月に入ったとはいえ まだ残暑は厳しい。 蝉の声も木々の多いこの学校では、せわしなく鳴いていた。 「イクってよく陸上部の練習している側で絵を描いてたから知ってたんじゃないの?」 舞子が朝の草野の行動を 分析している。 確かに 私は美術部員で、写生すると行って陸上部がよく見える場所で絵を描いていた。 もちろん、加藤を見るためだけど…それだけで、私が加藤を好きってことまで分かるかな。 「どうでもいいけど、ぺらぺらと喋り過ぎだよ」 ノートをうちわ代わりに使い一生懸命に扇ぐ。こんなので涼しくなるわけでもないが、気休めだ。 早く帰ってクーラーの利いた 部屋でゆっくりしたい。 「あ、イク来たよ。お迎え」 教室の入口を舞子が指を差す。ちょうど草野が顔を出し、私に向けて手を振っている。 「行ってくる。先に帰ってて」 「んー。明日ね」 草野が来るまでの暇つぶしの話し相手に、舞子は残っていてくれていたのだ。暑いのに、付き合ってくれて…いい奴。 草野に近付くと、嬉しそうに笑う。尻尾を元気よく振る犬みたいだ。 「暑いから、どこかに行こう」 「デートですか!早速嬉しいなぁ」 お喜び中悪いけど違うって… 私、暑いからって言ってるのにな。 そんな草野を無視して 先を歩き出した。 .
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