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「君が呼び出すなんて、久しぶりだね」
彼女はいつもと変わらない口調だった。先日の彼とは対照的な印象を受けた。
「そうですね。僕ももう、呼び出すことなんてないと思ってましたよ」
彼女も僕より年上。本当なら敬語を使わない相手だが、同じ学校の誼で使うようにしていた。
「なんか、君に敬語使われると変な感じがするね」
「そうですか? 敬語で話してることが多いと思いますよ?」
「そうかなぁ?」
彼女は笑いながら言った。
「そういえば、あの時も君はずっと敬語だったね?」
「あの時……そうでしたね」
彼女の口から、まさか昔の話が飛び出すとは思わなかった。そう、僕は前に彼女と付き合っていた経歴があった。
「2ヶ月あったのに、君はずっと敬語で、私のことを先輩って呼んでて……」
「昔の話はやめましょうよ。てか、急にどうしたんです? 普段はそんな話、触もしませんよね?」
僕は不思議に思い、彼女に問い掛けた。しかし、彼女の口はなかなか動かない。
「それでは、本題に入ります」
僕は何かを察し、唐突に話を切り出した。
「実は、一通手紙を預かっているんです」
ブレザーのポケットから、その手紙をスッと取り出し、彼女に見せた。
「あの彼からですよ。さっきの話が詰まった原因もこれですか?」
彼女は目を逸らしていた。僕はそれを気にしつつ、先日預かった手紙を彼女の手へと回した。
「ありがとう」
そう言って手紙を握り締めた彼女の顔は、妙に笑顔だった。
「先輩、なんでそんなに笑顔なんですか?」
「なんでだろ……君との時も、私は笑っていたよね?」
「はい。今でもあの笑顔は覚えています。そして、今も同じ笑顔が目に見えます」
「私もツラいんだ……今も、あの時も。だから、顔だけでも笑っていたいんだよ」
「……先輩は強いですね。身体は弱いけど」
僕も同じように笑顔を作った。
「君は一言多いよ」
彼女の笑顔も、自然な形を取り戻していた。
「手紙は確かに渡しましたよ」
「うん。わざわざありがとうね」
「いえいえ。それでは、また。さようなら」
「バイバイ。また会える日まで……」
<fin>
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