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「幽霊って、本当にいるのかな」
誰もいない小高い丘のベンチで、喪服を着込んだ一人の若い男が呟いていた。
「今、僕のこの独り言を聞いてくれてる幽霊っているのかな」
幽霊。そんな不確かな存在のことを、彼はずっと問い続ける。
「僕の声を聞いているかい? 聞いていたら返事をしてくれ」
当然、返事などはなく、風の音だけが当たりを賑やかしている。
「大昔に亡くなった僕の先祖が、僕の背後霊になっていると父は言ってたけど、本当にいるのか?」
彼は自分の背後に視線を送った。
「いないみたいだね。じゃぁ、母が言ってた水の神様はいるんですか?」
さっきとは違う方向に視線を送っている。しかし、何も起こらないのは変わらなかった。
「それじゃぁ、幽霊はいないのかな……」
そう呟き、彼は下を向いて考え込んでいた。
「そんなことないわよ」
すると、同じく喪服を纏った若い女が彼に答えた。
「姉さん……」
「幽霊はいるわ。私とあなたの後ろで、昨日から見守ってくれてる」
「昨日から……?」
「そう、昨日から。私たちのお父さん、お母さんがいるわ」
「けど、あんな事故で………」
彼は堪えきれずに涙を流していた。
「確かに酷い事故だったわ。車10台を巻き込んだ玉突き事故。沢山の死亡者を出しておきながら、首謀者はピンピンしてるみたい」
不良の事故で、2人は両親を失っていた。
「姉さん……」
「大丈夫よ。お父さんもお母さんもすぐ近くにいるわよ」
「本当に……?」
「本当よ。ね、お父さん、お母さん」
彼女はそう言って空を見上げた。静かに吹いていた風たちが、2人の周りを舞っていた。
「綺麗な星空ね。そろそろ帰りましょう」
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