3 手紙

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「少し、君に頼みたいことがあるんだよ」 「急にどうしたの?」  いつもは頼ってこない、プライドの高い彼が僕に頼み事とは、とても珍しいことだ。 「実はだね……」  そう言って彼は、カバンの中から紙を取り出して続けた。 「……彼女と別れるんですよ」  年上の彼が、丁寧な口調で繰り出した言葉は一見重いものだった。  前々からどうなったか気にはなっていたが、こんな形で結末を知るとは思いがけもしなかった。 「別れるんですか……」  僕も普段は彼に対して使わない敬語を使っていた。 「それで頼み事なんだが、この手紙を彼女に渡して欲しいんだ」  手紙を差し出した手は、若干震えて見えた。 「わかった。今日彼女が来れば良かったのにね?」 「そうなんだ……本当は今日、直接渡すつもりだったんだ」  所用があり、今日は違う学校の彼も来ていた。僕はその彼女と同じ学校に通っている。 「避けられたのかな……」 「そんなことはないと思うよ? ほら、彼女は良く体調崩すでしょ? 学校も良くいないしさ。今日も体調不良だよ」  いつになく彼は弱気になっていた。そんな彼を僕は見たくなかった。 「そうかな……」 「きっとそうだよ! 落ち込んでるなんて、らしくないよ!」 「すまない……心配かけてしまって」 「謝る必要はないよ。僕もそういう時は、かなり落ち込んだからさ」  つい自分の過去を振り返りそうになったが、それではいけないと回想を強制的に終了させた。 「とにかく、頑張れよ? 手紙は確かに預かった。必ず彼女に届けるよ」 「ありがとう。よろしく頼むよ」  雨雲が敷き詰った大空の下、その後の僕らは帰路へと着いた。 <fin>
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