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「少し、君に頼みたいことがあるんだよ」
「急にどうしたの?」
いつもは頼ってこない、プライドの高い彼が僕に頼み事とは、とても珍しいことだ。
「実はだね……」
そう言って彼は、カバンの中から紙を取り出して続けた。
「……彼女と別れるんですよ」
年上の彼が、丁寧な口調で繰り出した言葉は一見重いものだった。
前々からどうなったか気にはなっていたが、こんな形で結末を知るとは思いがけもしなかった。
「別れるんですか……」
僕も普段は彼に対して使わない敬語を使っていた。
「それで頼み事なんだが、この手紙を彼女に渡して欲しいんだ」
手紙を差し出した手は、若干震えて見えた。
「わかった。今日彼女が来れば良かったのにね?」
「そうなんだ……本当は今日、直接渡すつもりだったんだ」
所用があり、今日は違う学校の彼も来ていた。僕はその彼女と同じ学校に通っている。
「避けられたのかな……」
「そんなことはないと思うよ? ほら、彼女は良く体調崩すでしょ? 学校も良くいないしさ。今日も体調不良だよ」
いつになく彼は弱気になっていた。そんな彼を僕は見たくなかった。
「そうかな……」
「きっとそうだよ! 落ち込んでるなんて、らしくないよ!」
「すまない……心配かけてしまって」
「謝る必要はないよ。僕もそういう時は、かなり落ち込んだからさ」
つい自分の過去を振り返りそうになったが、それではいけないと回想を強制的に終了させた。
「とにかく、頑張れよ? 手紙は確かに預かった。必ず彼女に届けるよ」
「ありがとう。よろしく頼むよ」
雨雲が敷き詰った大空の下、その後の僕らは帰路へと着いた。
<fin>
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