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「あ、ありがとうございます……グス」
泣きながら礼を言う少女。歳は12、3歳といったところか。腰まで伸びる金の髪と、透き通るような青い瞳が印象的だ。
この国にいるということは、こんな幼いうちに死んでしまったということなのだろう。幼いながらも整った目鼻立ちは、あと数年生きていれば相当な美人になっていたであろうことを伺わせる。いや、いやらしい意味ではなく。
「あの男は、なぜ君を追いかけていたんだ?」
思いっきり蹴り飛ばしておいてから聞くのもおかしな話だが、一応聞いてみる。この少女が何か重大な事件に巻き込まれているのだとしたら、その事件を解決するのもまた一興。暇を潰せて、探偵気分も味わえるし、なおかつ暇も潰せる。そして何より……暇が潰せる。要するに暇なんだ。俺は。
「グスン……魔王に洗脳されてるから……私が、魔王を倒そうとしているのを知って……ウェッ」
「……はい?」
そんな俺の期待を裏切るように、少女の口から放たれる、思いもよらない単語。
「『魔王』って……あの魔王?」
「魔王のことを知ってるんですか!?」
いきなり食い付いてくる少女。変わり身が早いな。泣くのはどうした。
「いや、そういう意味で言ったのではなく……」
「私……魔王を倒さなきゃいけないんです。消えてしまったおじいさんの為にも、この世界の平和の為にも。そして、何より私の為にも!」
……違う。これは、俺が望んでいたタイプの事件じゃない。確実に。
「今日、始めて魔王に洗脳されていない人と会えました……私はアリス。一緒に魔王を倒しましょう!」
なにやら、おかしな展開になってきたが……まあいいか。どうせ暇だし。
「あー……俺はハクトだ。まあ、役に立つかは知らないが、よろしくな」
一時の暇潰し。子供と戯れるような軽い気持ちで、とりあえずアリスの魔王退治に同行することにした俺は、アリスに倣って簡単な自己紹介を済ませた。
この単なる暇潰しのつもりが後に、俺の死後ライフを大きく変えることになるなどとは……知りもせずに。
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