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「いや……だが、この家は……」
言いながら私の顔を見るハクトさん。そうそう、ここは私の家。
「あら? そちらのお嬢さんはどちら様?」
むしろ、あなたはどちら様?
「この子はアリス。この家に住んでいるようなんだが……」
「はい? おかしいですね? こんなお嬢さんと同居していたなんて、住民記録には無かったんですが……」
まあ……確かに、おじいさんに拐われてきたから、記録には無いかもしれないけれど……事実は事実よ。
「それに、私はここ数年この周辺区域を担当しているんですが、『アリス』という少女の入国手続きをした記憶が無いんですよね」
私も入国手続きなんてされた記憶は無いです。
「ちょっと、端末で検索してみますか」
言いながら、手のひらサイズの四角い箱のような物を取り出す女性。
「へえ……そんなことが出来るのか」
「ええ、最近では死後の世界でも近代化が進んでいまして……」
「携帯みたいな形だな」
「見た目は確かに携帯ですが、機能はスーパーコンピュータ並みですよ。全世界の魂のデータが入っていますから。これがあれば、ここ数年間の死亡者リストから入国記録まで、一発で検索出来るという優れモノなんです」
死後……死亡者……え?
「えーと……じゃあ、まずお嬢さん。自分の生まれた国の名前は言える? あと……出来たら、死んだ場所と、死んだ理由も」
女性が私の顔を覗き込んでくる。息がペペロンチーノ臭い。
死んだ理由? 死んだって……どういう意味? それに、生まれた国って……私は気付いたらこの国にいて、おじいさんに拾われて……それから……
「死んだ理由って……どういう、意味ですか? 私は、この国で生まれたんです、けど……」
何故か震える声。私がそう言うと、女性は一瞬、困ったような表情をしてから、ハクトさんと顔を見合わせた。
一体、何だというの?
意味が解らない。焦りとも、緊張とも、恐怖とも違う、理由の解らない不快な感覚が全身を支配する。震えと冷や汗が止まらない。
気持ち……悪い。
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