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「お嬢さん……嘘はいけませんね。別に、取って食べようなんて思ってないので、安心して言ってくれて良いんですよ?」
「私は……嘘なんか、ついてません」
そう、嘘なんかじゃない……はずなのに、なんで私は震えているの? この人の息があまりにもペペロン臭いせい?
「あー……アレじゃないのか? 記憶喪失ってやつ。何かの拍子に、スポーンと。多分、この国に来る以前の記憶が飛んじゃってるから、この国で生まれたと思ってるんじゃないかな?」
そんな私の様子を見かねてか、ハクトさんが明るい調子で言う。
記憶……そうだ。私には、おじいさんに拾われる以前の記憶が……
「そ、そうなんです。私は気付いたらこの国にいて……」
そこまで言って、ハッとした。私を見る女性の目付きが一瞬だけ、とても恐ろしくなったように感じられたからだ。それはまるで、狩人が獲物を見つけた瞬間のように。
「そうなんですか。それは仕方がないですね……まあ、この国では記憶の有無なんて些細なことですし、あまり気になさらない方が良いですよ」
女性はそう言ってニッコリと微笑むと、ハクトさんに『では、あとは宜しくお願いします』とだけ言って、そそくさと私の家を後にした。
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