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書類の山。
女。
ナポリタン。
いま、俺の視界にあるものだ。高々と積まれた書類の山の中で、一人の女が黙々とナポリタンを食べている。
「あ、ふいまふぇん! ゴクンッ……全然気付きませんで」
俺の存在に気付き、食べるのを止める女。口の周りはトマトソースで真っ赤だ。
「まぁ、その辺に適当に座って下さいな」
女はそう言って、書類の山から紙を一枚もぎ取ると、それで口の周りを拭き始めた。その紙じゃ上手く拭けないだろう……と思いながらも、とりあえず言われるままに腰を下ろす。体育座りだ。
「あーと、じゃあ、とりあえず入国手続きしますか。入国手続き」
言いながらバサバサと書類の山を漁る女。案の定、上手く拭けなかったらしく、口の周りはまだ赤い。
……それはさておき、『入国手続き』とは一体何のことだろう?
そもそも、ここがどこかも解らない。
「まぁまぁ、そんな恐い顔しなくてもいいですよ。別に取って喰おうってわけじゃないですから」
口の周りが真っ赤な人間に言われても、説得力が無い。
「あれー? この辺に置いたはずなんだけどなー? 承諾書どこやったっけ?」
どうやら、何か書類を探しているようだが……
「いつも、すぐ手の届く場所に置いてるんだけどなあ」
すぐ手の届く場所……ふと、先ほど女が口を拭くのに用いた紙が目に入る。使用済みの紙はグシャグシャに丸められ、無惨な姿で部屋の隅に転がっている。
「あ、もしかして……」
女は何かに気付いたように立ち上がり、部屋の隅まで行くと、そこに転がる可哀想な紙を拾い上げ、汚い物を触る手つきでそれを広げた。
「……あ、これですね」
生まれて始めて、紙に同情する俺がいた。
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