◆Lost Memory.

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  「なんだと?」  俺は思わず声を上げた。  この国が魂を浄化する施設なのだとしたら、ここにいるのは魂だけ――つまりは死んだ人間しかいないのが道理ではないのか。  そう問うと老人は、『まれにいらっしゃるんですよね』と言って、また語り出した。 「もちろん、この国には魂しか来ることはできません。多くの場合、死なれて肉体を失った方々が入国手続きを経て来られるのが普通なのですが、まれに……本当にまれに、肉体が『仮死状態』に陥った方が誤って来られることがあるのです。そういった方は、肉体に『記憶』を残したまま、核に限りなく近い状態の『魂だけ』がこの国に来てしまうので記憶が無いのです」 「それじゃあ……」 「ええ。あなたの知るその方は、恐らくそういう状態かと」  まあなんということでしょう。私が不憫に思っていたあの少女は、まだ死んではいなかったのですなどとナレーションチックに言っている場合ではない。 「間違ってこの国に来た魂を、肉体に帰してやることはできないのか?」 「はあ、多くの場合は自然に戻るのですが……」 「が? なにか問題でもあるのか?」 「そうですねえ……」  そこで、老人は値踏みをするように俺の顔を見た。 「ふむ。あなたなら大丈夫でしょう。実はですね――」  老人の口から語られたのは、これまた衝撃の事実であった。  
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