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「おい! 『不正憑依』を考えてる奴が行くとすればどこだ!」
「は、はひ……まずは地上に降りないといけないので、『国の端っこ』に行くものと思われます」
「どっちだ!?」
「と、とりあえず、真っ直ぐ……ふ」
今俺たちは全速力で走っている。
『たち』というのは俺と、広場で出会った老人だ。
なぜこんな展開になっているのかと言うと、老人の話した内容が、余りにも緊急を要するにものだったからに他ならない。というか、他にない。
老人の話によれば、魂が抜けて仮死状態になった肉体というのは、とても無防備な状態なのだそうだ。
本来ならば、仮死などで一時的に抜けた魂は、自然に肉体へと帰ることができる。
ところがどっこい。魂が抜けて空になっている肉体に『別人の魂』が入ってしまうと、その肉体の本来の持ち主にあたる魂は、自分の肉体に帰ることができなくなってしまうそうなのだ。
これを、『不正憑依』と言うらしい。
鬼の居ぬ間によろしく、魂の居ぬ間に肉体を奪ってしまおうという姑息な手段だ。
「不正憑依を考えてる奴ってのは結構いるのか?」
走りながら老人に訊ねる。
「い、いえ……ああああまりいませんね。魂だけが抜けた肉体なんて、そうっ、都合良くっ、あるものじゃありませんから、ゲホッ!」
非常に苦しそうだが……まあ、大丈夫だろう。
もう死んでるんだから死にやしないはずだ。
「それでも、地上に降りて探していれば、いつか見つかるんじゃないのか?」
「そうっ、いう考え方もありますが、一度地上へと降りてしまいますと、二度とこの国に戻って来ることはできないので、決断できる方はあまりいませんね。そんなっゲフ、見つかる確率の低い賭けをするよりは、この国で暮らしいる方が、ずうっと確実で平和ですから」
なるほど。生き返る為に平和を捨てて地上へ降りたとしても、手頃な肉体が見つからなければ、地上をさ迷う浮遊霊になってしまうというわけか。ハイリスクハイリターンってやつだな。
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